そして伝説へ
date: 2013.08.12
category: 廃墟
(ついにたどり着いた廃ダッジ)
先導松君の
「あッ ありましたよッ ありましたよッ」
という声が上から降ってきて、たぬきと汗だくの西君は大急ぎで最後の坂を登りきった。
「わあぁぁぁぁ」
坂を上ると、それまで歩いてきた細い道が急にぱあっと開けてだだっ広い地面が広がっていた。
その空間はいくつかの峠道が集まる交差点になっていて、中央には道の名前を示す看板が置かれている。
そしてそのすぐそばに、廃・ダッジ。
右側の前輪が外れているので、「ちょっと一休み」というように車体が斜めに傾いでいる。錆びたボディ。
荷台部分には噂通り山桜が大きくのびのびと羽根を広げるようにして生えている。
ここまでずっと無言で頭に疑惑の暗雲を浮かべながらふらふらと登ってきた西君が久しぶりに口を開くと、
「ああ・・・これは、すごいですね・・・!」
と、笑顔を浮かべた。
松君はさっそくコンデジでパシャパシャと写真を撮り、エンジン部分などを仔細に覗き込んでふんふんとうなっている。
こだぬきは今まで何度も写真等で見ていた時にはわからなかった広く開けた空間の不思議さと、その広い空間の真ん中で、しんと黙して緑に埋もれている廃ダッジを見つめてしばし呆然としていた。たどり着けなかったあの春の日の雪辱などはさらさらと流れてもはやどうでもいい。
それから「写真、写真」と何枚か撮影をしたり、ぼんやりとまたダッジと山桜に目をやったりを繰り返してから、先にデポ地に戻り始めている後輩二人を追いかけた。
***
のちのち調べたらこのゾーンは防火帯として意図的に切り開かれた場所だということがわかった。だから峠の真ん中で、急にさっと目の前が明るくなるように木々の無い広い空間が広がっていたのだ。
誰かが定期的に見回りでもしているのか、車体には目立って荒らされたような形跡はないし(サバゲーの跡でしょうか、BB弾的なものの跡は少しあったポン)山桜はすくすくと健やかに伸びている。
ただいろんな季節や天気(大雪だって)になすがままあるがままに身をさらしながらあり続ける廃ダッジは寡黙でハードボイルドで、でも縁側のおじいちゃんみたいな優しい顔もしていて、いろんな顔を見にまたやってきたいなと思ったこだぬきでした。
―おしまい
p.s.長くなってしまった三部作、読んでいただいてありがとうございましたポン(>_<)!!他の写真はこちらのページに上げてますポン(^_^)/→ 「余生は可愛い友達と」