金の三脚、銀の三脚
date: 2013.08.23
category: 機材のことなど
(おニューの三脚(ベルボンEX-440)を手に入れたこだぬきは、「これで暗いところも手ブレせずに撮れるポン!」と意気揚々廃墟を巡る。まさかその三脚であやうく人を殺めてしまうことになるとは思いもせずに・・・・・・・・)
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「奥多摩工業 氷川工場」
というところをご存知であろうか?
その手のマニアの方であれば当然知っているここは、現役の石灰石化工工場で、JR奥多摩駅から徒歩約5分くらいのところに突然ドーンと現れる。
ここについては後々ゆっくり語りたいので今日は割愛するとして、事件はこの工場を臨む小さな川にかかる橋の上で起こったポン。
以前にも訪れたことがあったのだが、一眼レフを買ってから来るのは初めてだったので、「大好きな氷川工場のよさがドーンと伝わる写真を撮るぞー」と勢い込んでの再訪だった。
買ったばかりのカメラD5100を首から提げ、買ったばかりの三脚ベルボンEX-440を肩に担いだ格好で久しぶりの氷川工場と対峙した。
美しい。
奥多摩の緑あふれる山を背景にしょいこんで、石灰の白い粉をところどころにまといガタコンガタコンと稼動する姿は伝統を守る頑固職人の姿のようだ。
橋の下に回って近くから見るぞ、と欄干に沿って歩き始めた時だった。
フッと肩が軽くなった。
一瞬の事で、何が起こったのか理解できないほどだった。
「あッッッッッッッ!!!!!!!!!」
・・・ない。
三脚がないのである。
今の今、肩に担いでいた三脚。
この間○ックカメラで買ったばかりの三脚が。
まるで意識をしない内に、三脚はこだぬきの肩を逃れふわっと浮かび上がると清流ながれる奥多摩の小川へ向かってまっすぐに落ちていっていたのだ。
その瞬間こだぬきの脳裏によぎったのは、「あんな重いものがこの高さから降ってきて、川原で遊んでいる童(わっぱ)の頭にでも当たったら・・・・!!!!!」という想像する中でも最もどん底な、最悪なイメージであった。
「ポンッ・・・!!ポンポコッ・・・・・!!!!!!!!!」
私は祈った。
せめて、誰もいないところに落ちていてくれ!
最悪、三脚なんてダメになっても構わない。
岩場に落ちてぶっ壊れても構わないから、童の頭を直撃するのだけは・・・・・!!!!と。
「え?な、なにやってんの?!」と同行したメンバーもこだぬきのおそるべき愚行に驚愕し、あわてて橋の下を覗き込んだ。
―が、無い。
落ちたところは、川辺から少し離れた崖の急斜面であり、三脚はとっくに緑に埋もれて消えうせてしまっていたのである。
「あーあー。これじゃ取りに行けないねえ」
と同行メンバー達はおニューの三脚が完全にサルベージできないところに落ちてしまったことを哀れんでくれていたが、こだぬきはホッとしていた。
(よかった、人を殺さずに済んだ。本当によかった・・・・)
自分があらゆる方面においてだらしがないし注意力散漫なことはわかっていたが、こうまで危険な過ちを犯してしまうことはそうそうなかったため、それなりに落ち込んだ。そして大反省をした。
そうして大いにうなだれて夕闇迫り始めた暗い川面を眺めていると・・・・
ぶくぶくぶくっと川面が揺らめき、虹色の光がサッと辺りを包み込むと、「SLIK カーボンマスター 813 FA」と書かれたカーボンパイプを採用した軽量で安定性の高い三脚を持った女神様が現れた。
女神様 「お前が落としたのはこの三脚か?」
こだぬき「違いますポン。私が落としたのはそんなに立派な三脚ではありませんポン」
女神様 「そうだろうね。では、この三脚を1万円で買いますか買いませんか?」
こだぬき「・・・!!(い、一万円かあ・・・ちょっと高いなあ・・・)」
女神様 「この三脚はお前が落とした3千円の三脚と違い高精度自由雲台を装備した中型スタンダード3段三脚で元値7万7千円ですが買いますか買いませんか?」
こだぬき「・・・!!」
女神様 「ウレタングリップ、ケース、ストーンバッグ、ウェイトフックを装備し持ち運びのしやすさと設置現場での安定性の向上を実現します」
こだぬき「△※○×■!!」
女神様 「・・・買いますね?」
こだぬき「かっ・・・、買いますポンッ!!!」
こうして女神様こと、こだぬきが大ファンでもあるサイト「廃墟デフレスパイラル」(←すてきなサイトですので是非)の管理人芝公園公太郎氏より、大変良心的な価格で良質な三脚を譲り受けたのでありました。神様仏様女神様否芝公園様、本当にありがとうございますポン!
事件のあった川原は日中はキャンプや釣りのお客さんで大変賑わっていたけれど、その時はもう夕暮れ迫っていたため無人で、実際落としたのは人の入れない崖の上で、本当によかった。結果はよかったけれども奥多摩の大自然に産業廃棄物を残すことになってしまったし、あわや人を殺める高さから三脚を落としてしまったことは愚行以外のなにものでもない。二度とこんなことが起こらないように注意しなくてはと心の紐と、物理的な三脚のストラップ紐をぎゅっと引き締めたこだぬきでした・・・。
―おしまい
※注意
三脚を落とし、手に入れましたが、この物語は一部フィクションです。橋の欄干から古い三脚を落としても親切な芝公園氏は現れませんのでご注意下さい・・・・・・